指図権とは、受託者が行う信託財産の管理・処分等について「指図」をする権利です。
信託契約の中で、受託者に指図できる指図権者を指定することができます。
指図権のメリットは、次のような事業承継の場合に最も効果を発揮します。
会社の経営者である75才になる父は、自社の全株式を所有しており、自分が認知症になる前に子に事業を承継したいと考えています。しかし、あくまでも認知症対策が前提での事業承継なので、しばらくは、経営に関与したいと考えています。
事業承継の中核となるのは、父が所有する自社株式を子に譲渡することです。それにより、子が完全に経営権を持つことになります。しかし、父が引き続き経営に関与したい場合は、この株式を譲渡する方法ではなく、家族信託で次の設計をします。
- 委託者 父(現在の株式所有者)
- 受託者 子
- 受益者 父
- 指図権者 父
- 信託財産 自社株式
- 信託の終了事由 父の死亡
- 帰属権利者 子
こうすることにより、受託者である子に経営権が移る(=株主総会での議決権を行使できる)ことになるので、株式については信託による方法で承継することができました。
しかし、父を指図権者としましたので、受託者である子に指図して議決権の行使が可能となり、認知症を発症するまでは、引き続き経営に関与することが可能となります。その後、もし父が認知症を発症して指図権が行使できなくなれば、指図権の行使がない状況となるため、子(受託者)が単独で議決権を行使することになります。
また、父が死亡した場合は、信託が終了し、帰属権利者である子が完全に株式を取得することになりますので、子が単独で議決権を行使することになります。
このような指図権者の指定については、不動産管理の信託の場合でも同じ手法で応用することが可能です。
家族信託の効力を最大限に発揮させるためには、上記の他にも、個々に応じて(家族関係、資産状況、実現したい内容など)、様々な検討事項があります。そのため、まずは司法書士などの専門家にご相談の上、進めていくことをお勧めします。