家族信託の注意点-信託設定時に想定しておく信託の終わらせ方

信託財産は、信託が終了すると、最終的に信託契約において指定された者(帰属権利者等)もしくは信託法で規定された人に所有権が帰属します。

しかし、信託終了の時点で、それらの人が、認知症や行方不明など不安定な状態であれば、円滑な資産承継を目的とした家族信託の目的を達成したとは言えません。

そのため、信託の終わらせ方は、重要な検討事項となります。

ここでは、信託の主な終了事由と信託終了後の財産の行方を説明します。

 

(1)信託の主な終了事由

①委託者と受益者が合意したとき

家族信託は委託者が受益者のために設定するのであるから、この2人の合意があれば、信託を終了させることができます。

ただし、これをそのまま適用させると、次のようなデメリットが発生します。

1.委託者が認知症となり、成年後見人が選任された場合

認知症対策で行う家族信託の場合、委託者=受益者となる場合が多いですが、この方が認知症になった時に、信託財産以外で所有している財産がある場合は注意が必要となります。

その場合、信託財産以外の財産は、成年後見人が選任され、管理していく必要が出てくることがありますが、成年後見人は、本人の利益を守る必要がありますので、その目的のために、委託者=受益者であった本人を代理して、単独で家族信託を終了させる可能性があります。そうなると、委託者の本来の思いを実現する前に信託が終了してしまうおそれがあります。

2.委託者の死亡後に、何らかの事情により信託を終了させる必要が生じた場合

この場合、信託を終了させるには、委託者の相続人の協力が必要となりますが、その協力を得られないと、信託を終了できなくなるおそれがあります。

上記のとおり、委託者を関与させると信託契約が不本意な結果に終わってしまうおそれがあります。そこで、委託者を関与させないように信託契約で別段の定めをおくことが可能となっています。

具体的には、次の②2.のような規定(受託者及び受益者が合意したときに終了するとして、委託者を関与させない規定)をおくことにより、委託者の関与を回避することが可能です。

 

②信託契約において定めた事由が生じたとき

当事者間に争いが生じないように、信託の終了事由を明確にしておく必要があります。
例えば、以下のように定めます。

  1. 委託者及び受益者が死亡したとき
  2. 受託者及び受益者が合意したとき
  3. (受益者が未成年の場合は)受益者が成年に達したとき

 

③信託の目的を達成したとき、又は信託の目的を達成することができなくなったとき

当然の規定ですが、信託の目的を達成したとき、又は信託の目的を達成することができなくなったときは、終了します。例えば、信託の目的が、受益者が大学を卒業するまでの学費の支給であった場合、受益者が大学を卒業すれば、信託の目的は達成しますので、終了することになります。

 

④受託者が受益権の全部を固有財産として所有する状態が1年間続いたとき

受託者=受益者となっているということは、自分のために自分が財産を管理している状態となります。この状態では、信託の意味がないということで、1年間続くと信託が終了します。

 

⑤受託者が欠けた場合で、新しい受託者が就任しない状態が1年間続いたとき

受託者が欠けると、受益者の権利が守れなくなるので、1年間続くと信託が終了してしまいます。それを避けるために、信託契約の時に受託者が不在にならないよう設計する必要があります。

 

⑥受託者が立て替えた費用を信託財産で賄えない場合において、受託者が信託を終了させたとき

受託者が信託事務を処理するために立て替えた費用は、信託財産から取得することができます。しかし、信託財産が不足して、その費用を賄うことができなくなったときは、委託者または受益者から一定期間を経過しても費用の償還を受けられない時は、信託を終了させることができます。

 

(2)信託終了後の財産の行方

信託終了後の財産(残余財産といいます)については、以下の順番で帰属することになります。

第1順位 信託契約において指定された者(残余財産受益者・帰属権利者)

第2順位 上記の定めがない場合、又は指定を受けた者のすべてがその権利を放棄した場合は、委託者又はその相続人

第3順位 上記より定まらないときは、清算受託者(信託終了後に、残余財産の給付などの職務を行う人)

家族信託が円滑な資産承継を目的としている以上、信託終了後の財産の行方は、第1順位の帰属権利者等として定めておくことが必要です。そうすることにより、残余財産を直接、承継したい人に帰属させることができます。イメージとしては、生命保険の受取人を指定する行為と似ています。

家族信託の効力を最大限に発揮させるためには、上記の他にも、個々に応じて(家族関係、資産状況、実現したい内容など)、様々な検討事項があります。そのため、まずは司法書士などの専門家にご相談の上、進めていくことをお勧めします。

 

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