「遺言」という名前が付く手続きは、次の3つあります。
- 遺言
- 遺言代用信託
- 遺言信託
これらの明確な違いを説明します。
①遺言
- 一人でも作成することができる。
- 死後の財産を「誰に」、「何を」渡すかのみを決めることができる。
- 死後に相続人全員の同意があれば、遺言の内容と違う財産承継をすることも可能なので、遺言者からすれば不安な一面もある。
②遺言代用信託
- ①の遺言と違い、独立した制度ではなく、家族信託の信託契約の一部である。
- 死後の財産を「誰に」、「何を」渡すかのみを決めるだけでなく(ここまでは遺言と同じ機能)、渡した財産の「管理方法」まで指定できる。さらに、その次の世代以降の引継先も指定することもできる。
- 決めた内容を本人だけで自由に変更できないので、家族間にとって安心かつ確実である。
③遺言信託
遺言信託と呼ばれるものは次の2つあり、それぞれ全く違う性質となっています。
1.信託銀行や信託会社が扱うパッケージ商品の名称
この商品の内容は、遺言書の作成・保管・執行(死後に信託銀行等が主導で、相続手続を進めること)となっております。法的な効果は、通常の遺言と同じですが、遺言書の作成から最後の執行まで、一括して銀行に任せることができる点で安心感を得ることができます。
2.信託する内容を遺言で定めておく方法(家族信託の1つ)
さきほどの②の遺言代用信託は信託「契約」でしたが、こちらは、遺言+信託というイメージとなります。
家族信託の1つなので、②の遺言代用信託と同じく、死後の財産を「誰に」、「何を」渡すかのみを決めるだけでなく、渡した財産の管理方法まで指定できます。
しかし、一般的に家族信託は、死後からでなく、認知症を発症した後の財産管理も行いたいというニーズが非常に高く、生前から効力が発生する信託「契約」の方がメリットは大きいので、死後に効力が発生するこの遺言信託を利用する場合は、少ないと思われます。
それでも遺言信託を選択するメリットを挙げるとすると、信託契約では、契約段階で、財産を1つ1つ特定する必要がありますが、遺言信託では死亡時の「財産全部」という指定ができ、「とにかく全ての財産管理方法を指定したい」というニーズがあるのであれば、これを利用することも有り得ます。
以上のことから、この3つの手続のうち、認知症対策とスムーズな財産承継を目的とするならば、次の手法がベストであると考えます。
- 遺言代用信託を含めた家族信託契約を利用する。
- もし上記1で全財産を網羅できなかった場合は、補完として、遺言で残りの財産の承継先を決める。