理論上、価値のある財産は全て信託財産できますが、現時点では、実務上、対応可能な財産は、ほぼ次の3種類に限定されています。また、借金などの債務は信託することはできません。
①金銭
金銭を信託財産として管理するには、金融機関で受託者名義の信託専用の口座(信託口口座)を開設する必要があります。これにより、この口座と受託者の個人的な口座を分別して管理することになります。
②不動産(土地、建物)
一般的な土地、建物は特に問題ありません。信託登記をすることによって、第三者にも対抗することができます。
ただし、次の場合には、制限があります。
(1)ローン(抵当権)が残っている不動産
技術的には、そのまま信託登記(名義変更)をすることは可能なのですが、通常、金融機関とのローン契約書には「名義を変更する際には、事前に金融機関の承諾を必要とする」旨の条項があります。そのため、ローンが残っている不動産を信託する場合は、金融機関の承諾が必要となります。
(2)農地
農地は、農地法という法律で規制されており、農業委員会の許可等がなければ、信託の効力が生じないことになっています。そのため、将来、許可等を得ることを条件とする「条件付の信託契約」という取扱いになります。
(3)借地権(賃借権)
借地権を譲渡するためには、民法という法律の規定により地主の承諾が必要となります。しかし、現時点では、信託という行為が譲渡に当たるかどうか、明確になっていませんので、地主の承諾が必要かどうかは不明確です。しかし、今後、信託が譲渡に当たるという見解になるかもしれませんので、承諾を得ておくのが無難です。
③自社株式(未上場株式)
経営者の自社株式については、信託することにより、スムーズな事業承継が可能となります。ただし、上場株式や投資信託などについては、現時点で、ほとんどの証券会社が信託による名義変更手続の取扱いに対応できていません。そのため、上場株式や投資信託などは、理論上は信託が可能ですが、実務上は難しい状況です。