家族信託以外の生前対策として代表的なものは、次の5つとなります。
①遺言(争族対策)
遺言する人が、死後に財産を「誰に」、「何を」、渡すかを決めておく方法です。遺言を作成することによって、死後の相続人の間での財産争いを予防することが可能です。
ただし、各相続人には、遺留分という最低限、相続できる財産の取り分が法律で保証されています。そのため、例えば相続人が複数いる場合、遺言でそのうち1人だけに全財産を相続させるという内容にしてしまえば、他の相続人から遺留分を請求されてしまいます。そのことから、一番多く渡したい人がいても、その他の人には遺留分だけは確保した内容にしておくことが大事です。
②贈与(相続税対策)
将来の相続人に財産を贈与することによって、全体の財産を減少させると、相続税の節税効果があります。
ただし、贈与には多額の贈与税が発生するリスクが高く、節税のつもりが増税にならないように、贈与税の非課税制度を活用しながら進めていくのが大事です。
③資産の組み換え(相続税対策)
例えば、自己資金(現金)でアパートを購入すれば、現金に比べて相続税の課税対象額が2~5割程度下がりますので、相続税の節税効果があります。これが資産の組み換えとなります。
④生命保険(相続税対策)
「500万円×相続人の数」の生命保険金(仮に相続人が3人であれば、500万円×3人で、1,500万円)は、相続財産に加える必要がなく、非課税となります。もし、余裕資金があれば、その範囲内で生命保険に変えるだけで、大きな節税効果があります。
例えば、単純な例として、自分以外に妻1人と子供2人がいて(相続人は3人)、総財産が6,300万円とします。もし相続が発生して、子供に全部財産を渡すとなると、相続税の基礎控除額が、4,800万円(3,000万円+600万円×3人)となり、6,300万円(総財産)-4,800万円(基礎控除額)=1,500万円に対して税率を掛けた金額が課税されますので、計算すると175万円の課税となります。
しかし、生前に1,500万円(500万円×3人分)の生命保険を掛けていた場合は、6,300万円(総財産)-4,800万円(基礎控除額)-1,500万円(生命保険非課税枠)=0円となり、相続税がかからないようになります。
⑤任意後見制度(将来の不安を解消)
本人の入院・施設入所・介護関係の手続きなど身上監護に関することは、家族信託の適用外となり、別途、成年後見制度の利用が必要となります。
成年後見制度は、大きく分けて、任意後見制度と法定後見制度(こちらがよく耳にする方です)の2種類ありますが、任意後見制度を利用しない間に認知症を発症すれば、法定後見制度しか利用できなくなります。
任意後見制度は、本人に判断能力がある間に、将来、認知症を発症したときに、任意後見人として生活を支える人を自分で選んでおくことができる制度です。
また、その人にお願いする内容も自分で決めることができます。
これに対し、法定後見制度は、認知症を発症した後の制度となりますので、本人の意向にかかわりなく、家庭裁判所によって後見人が選ばれることになります。
このことから、見ず知らずの人が後見人となる可能性がある法定後見制度と違い、信頼できる人を事前に選んでおくことができる任意後見制度を利用することによって、家族信託の適用外の身上監護の分野について、将来の不安を解消することができます。
上記の生前対策のうち、どれを選択(もしくは併用)するかは、個々に応じて(家族関係、資産状況、実現したい内容など)、異なりますので、まずは司法書士などの専門家にご相談の上、進めていくことをお勧めします。