家族信託をおすすめするケース5-事業を子へ~事業承継にも家族信託~

事業を子へ~事業承継にも家族信託~会社の経営者である75才になる父は、自社の全株式を所有しています。将来、自分が認知症になった時に備えて、今から子に事業を承継しておきたいと考えています。

事業承継の中核となるのは、自社株式の名義を子に移すことです。その結果、子が完全に経営権(株式の議決権)を持つことになります。そうなると、父は法的には子の経営に口出しができなくなります。

しかし、父は、まだ子に経営を全て任せるには、不安が残っています。

このケースで、現在の株価が低い場合と高い場合の2つに分けて説明します。

 

(1)株価が低い場合

まずは、株価が低い今のうちに子に株式を贈与することで、贈与税の負担を抑えることができます。またこの時点で、株式が子に移転するので、将来、父の認知症の発症のため経営が止まるリスクは、解消されたことになります。

子に会社経営を全て任せてもいいのであれば、これで終了となります。しかし、今回のケースのように、父がまだ会社経営に関りたい場合(法的に言うと、株式の議決権を行使したい場合)は、この株式の贈与と同時に、家族信託で次のような信託契約書(必要箇所以外は割愛)を作成することになります。

  1. 委託者    子(現在の株式所有者)
  2. 受託者    父
  3. 受益者    子
  4. 信託財産   自社株式
  5. 信託終了事由 受託者及び受益者の合意
  6. 帰属権利者  信託終了時の最終の受益者(子)
     ※帰属権利者とは、信託終了後の残余の信託財産(今回は自社株式)の給付を受ける人です。

 

こうすることで、株式の経済価値(配当金の受領など)は、受益者の子に残りますが、経営権(議決権)は、引き続き、受託者の父が行うことができます。

その後、子に全ての経営を任せてもいい時期がくれば、お互い(受益者である父と受益者である子)の合意により信託を終了させて、信託財産である自社株式を子に帰属させて、父の役目は終了となります。

この一連の株式の動きをまとめますと、次のようになります。

  1. 父から子への贈与
  2. 子から父への信託
  3. 父から子への帰属

 

(2)株価が高い場合

この場合、株式を贈与すると、贈与税の負担が大きくなると想定されるので、株価が低い場合に行った贈与をせずに、家族信託で、次のような信託契約書(必要箇所以外は割愛)を作成することになります。

  1. 委託者    父(現在の株式所有者)
  2. 受託者    子
  3. 受益者    父
  4. 信託財産   自社株式
  5. 信託終了事由 父の死亡
  6. 帰属権利者  子
     ※帰属権利者とは、信託終了後の残余の信託財産(今回は自社株式)の給付を受ける人です。

 

この場合、自社の株式の名義は、受託者である子に変更され、子が一切の議決権を持つことになりますので、将来、父の認知症の発症のため経営が止まるリスクは、解消されたことになります。ただし、株式の経済価値(配当金の受領など)は、受益者である父のままなので、贈与税がかかることはありません。

しかし、今回のケースのように、父がまだ会社経営に関りたい場合(法的に言うと、株式の議決権を行使したい場合)は、この信託契約の中で「指図権者」を登場させます。

指図権者は、受託者である子に対して、議決権の行使などの指図を具体的にすることができる者です。そのため、契約で父を指図権者とすることにより、引き続き、会社経営に関与(指図)することできるようになります。

その後、父が認知症を発症すれば、父は指図権の行使ができない状況となるので、受託者である子が経営を単独で行うことになります。

また、受益者である父が亡くなれば、⑤で定めた信託終了事由(父の死亡)により、子に自社株式が帰属しますが、それまでの間に株価対策(不良債権の処理、含み損のある不動産の売却、社長への退職金の支給など)をすることにより、信託をした時より株価評価を下げることができていれば、課税の負担を軽減することが可能となります。

なお、2018年から10年間の限定で、事業承継税制に特例が設けられました。

この特例は、一定の要件を満たすと、事業承継に基づく自社株式の譲渡についての相続税・贈与税が事実上ゼロになります(だだし、2023年3月31日までに、都道府県に対して「特例承認計画」という書面を提出して認定を受ける必要があります)。この特例をうまく利用することができれば、事業承継をよりスムーズに行うことできます。

上記のとおり、事業承継を進めていく場合は、家族信託をはじめ、様々な方面からの判断が必要になりますので、まずは司法書士などの専門家にご相談の上、進めていくことをお勧めします。

 

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